asaの足あと

何気ない暮らしと、その中で、日々こぼれ落ちるささやかな幸せと小さな痛みをそっと静かに残すように、このブログをしたためています。

ずるいお守りと本当のお守り

先月から新しいところで働いている。

コロナで会社が立ち行かなくなり、

出稼ぎにでろとばかりに

人事から示された新たな勤務地は、

満員電車と満員ではない電車を乗り継いで、

通勤に片道約1時間半。

この1年間で

すっかりテレワークに甘んじていた私の体と、

朝にはいってらっしゃいと送り出され

放課後には学童に行かずに家に帰り

おかえりと言ってもらえる暮らしに

どっぷりはまってしまっていた娘の心は、

ぐらんぐらんに揺れている。

 

案の定、私はまた上手く眠れなくなった。

日々蓄積されていく疲労感は、

鉛のように重く体にのしかかる。

 

留守番を恐れる娘は

毎日のように

お母さん仕事やめてよ

と言い寄り、時に激しく泣きじゃくる。

 

 

朝、娘より30分ほど早く家をでる。

前夜に「仕事やめて」と泣いていた娘が、

朝には「がんばって」と送り出してくれる。

 

新しい仕事はいつだってちんぷんかんぷんだ。

社内は緊急事態宣言がてているとは思えないほど

多くの人が忙しなくパソコンに向かい、

しばしば声をはりあげ合う。

私もまた声をはりあげ、

ちんぷんかんぷんの謎解きの協力を

先輩方や新しい同僚たちに求める。

ありがたいことに誰もが嫌な顔ひとつせず、

助けてくれる。

ここでもまた、私はとことん人に恵まれている。

 

くたくたになって家に帰り着くと、

たいてい夫と娘が夜ごはんを食べている。

私が週末に作り置きしたおかずや、

朝に準備したサラダや、

前夜にあわてて作ったカレー……。

皿の中をのぞきこむと

もう9割方食べ終えていて、

私の席にはお箸だけ

しっかり箸置きにセットされている。

 

あと30分だけ待ってて。

7時半に帰るから。

一緒にごはん食べよう。

 

もし私がそう言ったら

娘も夫も待っててくれるに違いない。

実際に数年前の我が家では

そのくらいの時間に

そろって夜ごはんを食べていたのだから。

だけど、私のテレワークに伴い

夜ごはんの時間がはやまり

ようやく夜10時までに寝るようになった

娘の生活スタイルをくずしたくなくて、

「先に食べててね」

と、毎日冷蔵庫の最下段に夜ご飯をそろえておく。

我が家にとって夜の数十分は

朝のそれ以上に貴重なのだ。

 

 

どうして仕事やめてくれないの?

と、娘は言う。

 

お金をかせぐため

と、私は答える。

 

それだけじゃないでしょ。

楽しいから?

と、娘が責めるように言う。

 

楽しそうにみえる?

と、私は責め返すように答える。

 

約束したのに

と、娘が声をはりあげる。

 

そう、約束したのだった。

娘が会社と私に望むひとつの条件を

満たすことができないなら、

仕事を辞めること。

数日前、その条件が満たされないことが

会社からの通知で明らかになった。

 

約束したのに

どうしてまた約束やぶるのよ

と、娘が私を責め立てる。

 

どうして私は娘との約束をやぶろうとするのだろう。

わからない。

体にまたかつてのような不安をおぼえはじめても、

娘に泣きじゃくられても、

会社から納得し難い指示連絡を受けても、

どうしてしがみつこうとするのか。

 

約束をやぶろうとしている理由はわからないけど、

約束をした理由は明らかだ。

 

仕事をやめてほしい

と娘に乞われることは、

ずっと仕事が苦痛で

やめたくてたまらなかった私にとって、

お守りみたいなものだった。

やめてもいい、娘も望んでいるんだから、

という、自分を守りながらやめるための言い訳。

ずるいお守り。

 

 

来週もきっと

また朝がきたら準備をし、娘に見送られ、

駅に向かい、電車に乗り、オフィスへ行く。

そして、娘にもらった本当のお守りを傍らに、

ちんぷんかんぷんと格闘しながら

業務に勤しむ。

 


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いつもワタシを

こんなへんなワタシを

ささえてくれてありがとう

 

お守りにかかれた娘からのメッセージ、

もらった時はぎょっとし、爆笑した。

まさか娘が自分のことを

へんな子だと思っていたなんて。

 

へんなわけがない。

娘は私から生まれてきたとは思えないくらいに

真っ当だ。

 

へんなのは、私。

ささえられているのも、私。

ありがとう も、私のせりふ。