asaの足あと

何気ない暮らしと、その中で、日々こぼれ落ちるささやかな幸せと小さな痛みをそっと静かに残すように、このブログをしたためています。

雪とコロナにふるえる

一昨日のこと。

 

今年はじめてみた雪に、

娘は歓声をあげた。

もう、あと数日で3月も終わるというのに。

 

引越しの搬入日。

空気がこもらないようにと

開け放っていた窓の外

はげしく雪が舞っていた。

美しいというよりは

どこかくすんだ白の世界。

どうりで冷え込むはずだ。

慌ただしい作業の手をとめて

息をのむ。

 

次々と運び込まれるダンボール箱

冷たく、ひどく濡れていて、

それは私を絶望的な気分に落とし込めた。

 

 

コロナとか雪とかコロナとか。

なんだかなぁ。

 

そんななか、

引っ越し業者による搬入が終わり次第、

荷解きもままならないまま

前日になくなった義父のもとへ

飛び立つ必要があった。

 

とりあえずそのへんに。

取り急ぎそっちの部屋に。

はいはい、このままドンとここへ。

 

急かされるような心もちが、

急かすような口調をうむ。

 

濡れたダンボールや家具が

新居を湿らせた。

 

すべての荷物が持ち込まれたはずなのに、

探しているダンボール箱

なかなかみつからない。

雪にはしゃぎあきた娘に応援を要請する。

 

結局その箱は私が掘り出した。

黒い手提げや数珠や

香典袋や筆ペンやらを引っ張り出し、

そこらに転がっていた紙袋にひとまとめにする。

喪服をスーツケースに放り込み、

着替えを多めにつめこむ。

マスクや薬やコンタクトも多めに。

 

夫が引っ越し業者さんと最終確認をしている横で、

出発の準備を整える。

 

はたと、黒い靴がないことに気がつく。

 

ぼろぼろになってたから

荷物つめる時に捨ててしまったのだった。

もう一足あるからいいや、と。

そのもう一足が

会社のデスクの下であることを思い出す。

もう二度と行くことのない

つい数日前にバタバタとお別れしたデスクの。。。

 

やれやれ、だ。

間抜けな自分に肩をおとす。

 

調べると最寄り駅の近くに

靴やさんがあるらしい。

空港に行く前に立寄ることにした。

 

「おなかすいたー!」

と娘が、その日30回目くらいになる言葉を発する。

 

食材の入ったダンボール箱から

カップ麺を取り出したが、

お湯を沸かす気にも

ゴミ屋敷のようなそこで食す気にもならず、

時計をみるものの、

もう午後であることしか

頭が理解しない。

 

どうする?

と夫にきくと、

フライトまでまだ時間がある、

と夫が言った。

 

乱れた格好のまま財布だけもち、

迎えの和食屋さんにはいると、

広い店内にお客は誰もいなかった。

マスクをした店員さんに席を案内され、

マスクをしていない店員さんがお茶をくれ、

マスクをしていない店員さんに

牡蠣フライ定食ふたつと

お子様セットひとつを注文した。

 

搬入中ずっとつけていたマスクをはずし、

娘のマスクをあずかり、

吐息をついた。

 

貸切状態だと思っていた店内を

改めて見渡すと、

遠くの席にひとりだけ

食事をしているお客さんがいた。

 

マスクをしていない店員さんが

お料理をおきながら

「お味噌汁とごはんはおかわり自由なので」

と優しい笑顔をくれ、

そのあたたかさにほっとしながらも、

お料理を目の前にマスクをして喋ってほしいな

と、ひやひやもしてしまう。

 

お味噌汁もごはんも美味しくて

夫も私もしっかりおかわりをした。

 

あんなにおなかすいたと言っていたくせに

娘はお子様セットを半分のこし、

私はその残りもたいらげた。

 

店をでると、

前を通り過ぎる車のボンネットに

雪がつもっていた。

 

「みてみて、あの車!

 雪が見たいってずっと言ってたやん。

 かなってよかったね」

走り去る車をさしながら娘に言う。

「ラッキーやね」

と、つけ加えると、

「うん、よかったー、ラッキーやわ」

と娘が歩きながらとびはねた。

つかの間

アンラッキーがラッキーに変換される。

 

 

湿った荷物を湿らせたまま、家をでた。

 

 

電車に飛行機に

バスに電車にタクシーを乗り継いで、

夜22時過ぎに到着した義実家では、

通夜を終えたあとの見知らぬ親戚たちが

語らっていた。

 

二階へスーツケースだけ運んだ夫は、

すぐに義父の眠る葬儀場に向かった。

 

スーツケースをあけると

翌日の告別式用に一式つめこんだ紙袋が

どこにもなかった。

 

疲れからか、

手指がなんとなくびりびりと

ふるえていた。