asaの足あと

何気ない暮らしと、その中で、日々こぼれ落ちるささやかな幸せと小さな痛みをそっと静かに残すように、このブログをしたためています。

指先の神様にゆだねる

答えを出したのは、天の神様だった。

 

月曜日、夫に転勤の辞令がでた。

家族で引っ越すか、単身赴任か、

2日以内に答えをだせ、

と会社が言うのだと夫が言う。

どうするの、

と他人事みたいに夫が問う。

 

行きたくない。

ここが好き。

娘の友達、いわゆるママ友、同僚、

いつも笑って会釈してくれる

近所のインドカレー屋さん、

ぶっきらぼうな八百屋のおじさん、、、

ここでふれあう人が好き。

行きたくない。

ここにいたい。

 

娘に、どうする?ときくと、

転校いやや、と答える。

 

じゃあパパとはなれてくらす?

ときくと、んんんー、

と首をかたむける。

 

一晩中かんがえて、一日中かんがえて、

行きたくない気持ちはふくらむ一方なのに、

それでも答えは出せなくて、

火曜日の夜、もういちど娘に相談をする。

 

娘は私の問いかけにはこたえずに

食事中だというのに、お箸をおいて

テーブルの上で勢いよく

なにやらつぶやきながら右指を動かし出す。

なかなか答えを出さない私たちに

しびれを切らしていた夫が

「手遊びすんな、うるさい」

と苛立つ。

 

「違う!」

と娘が、ぴしゃりと言う。

「いま、決めてるの!」

と。

そして、今度ははっきりと声にだしながら

右手のひとさし指を右へ左へと動かす。

 

「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な。

 て・ん・の・か・み・さ・ま・の

 い・う・と・お・り・・・」

 

ゆっくりと指がとまり、

「あっ。ついて行く、やって」

 

夫の顔にうっすらと笑みがうかぶ。

 

「えー、そうなん?そんなんで決めちゃうん?」

と私はつい涙声になる。

 

「じゃあ、もう一回やりなおしてみるな」

と言い、高速でやる。

 

私には、指のとまる2つの先の

いったいどちらが「ついて行く」なのか

分からない。

 

最後の方だけゆっくりになった

人差し指が左側にとまり、娘は言う。

「また、ついて行くになったわ」

 

私は、安堵と絶望が入り混じった息を

ふぅーっと吐ききったあと、

「そっか、じゃあ、みんなで引っ越そうか」

と答える。

 

じゃあ明日会社で申請しとくわ、

と夫が機械みたいに言う。

 

 

大好きなここを離れ、

夫について行くことを決めたのは、

娘の指先にやどる 天の神様 だった。