asaの足あと

何気ない暮らしと、その中で、日々こぼれ落ちるささやかな幸せと小さな痛みをそっと静かに残すように、このブログをしたためています。

あこがれながら、さまよう

働いていないことが何よりつらかったから。

 

友人からのメールにはそう書かれていた。

 

娘が0歳のときに図書館で出会った彼女は、

いわゆるママ友で、

出会った当初は子どもの話ばかりしていたのだけど、

いつからか、子ども同士を遊ばせては

自分たちの話ばかりするようになっていた。

 

 

働いていない?

外で仕事をしていない、

給与や対価をもらっていない

って意味ならそうかもしれないけど、

働いてる…よねぇ……

彼女の口から専業主婦であることへの不安をきくたび

私はそんなふうに思っていた。

 

彼女の家は

娘ちゃんのために彼女の手でセンスよく築かれた

愛情に彩られていた。

 

トイレトレーニングや着替えをおぼえる頃には、

できるたびにシールをはってゆく

可愛い手作りのシートが壁に飾られていて、

吸い込まれるように見た。

うちはその場しのぎと成り行きまかせ、

保育園のおかげでなんとか…と、

情けなくもなった。

 

かわって壁にはられた手作りの平仮名シートには、

ひとつひとつに彼女の手でイラストが書かれていて、

どんな既製品より素敵に思えた。

 

まだ年中の頃に

九九の手作りシートをみたときには、

少しばかり焦りも感じた。

 

娘ちゃんの髪は、

彼女のつくったヘアゴムで

いつもきれいに結ばれていた。

娘の髪は、百均のヘアゴムで

いつもぼさぼさになんとか束ねられている。

 

部屋のあちこちに

娘ちゃんへの愛情と

そのために彼女が費やした時間と労力が、

きらきらと散りばめられていて、

私はそこに行くたびに、

焦りと罪悪感をかすかに抱きながらも、

その何十倍も、ほっと癒され、

「ほんのちらっとだけお邪魔するわー」

なんて言っていたくせに、

ずいぶんくつろいで帰るのだった。

 

私は育児をしていない。

いろんなことにあわてふためき、

いろんな情報にふりまわされるけど、

結局なにもかも成り行き任せだ。

 

私は彼女と彼女の娘ちゃんがうらやましかった。

ちゃんと育児をしている彼女と、

ちゃんと育ててもらえている娘ちゃんが。

 

娘は、勝手に自分で育っている。。。

 

「asaちゃんはフルで仕事してるのに、ちゃんとしててすごいね」

うちに遊びにきてくれたときには、

無機質にかろうじて整えられたリビングをみて

彼女はそう言ってくれた。

「いいなぁ」

とも。

 

私は少しばかりいい気分になりながらも、

違和感をもつのだった。

 

ちゃんと??

 

私はちっともちゃんとなんてしていないじゃないか。

 

すごい??

 

私はすごい人間にあこがれながら、

一度だってすごくなれたことがない。

 

 

たとえば私に仕事という制約がなくなったら、

私はどんなふうに家のことをして、

どんなふうに娘と向き合うのだろう。

何度も考えた。

 

不器用な手でなにかつくろうと試みては失敗し

すぐに投げだし、

あぁあぁこれだから私は、と

ひらきなおってみたり

苛立ったりしているような。

娘の髪はかわらず登校時間ぎりぎりに

ぼさぼさに束ねられてるだろうな。

毎日きぃきぃと娘をせかしては、

なんだか分からない苛立ちの矛先を

家族にむけては

あたりちらしてるかもな。

お人形ごっこやままごとってげんなり、

ひどいときにはしりとりですらぐったり疲れる。

一緒に遊びたがる娘にうんざりしては、

やっぱり気がつけば

自分のことばかり考えているような。

 

結局、今となんにも変わらない。

 

私にたりないのは、

本当のところ時間じゃないのだ。

それなのに、すぐに時間がない病を患い、

なにもできない自分を時間がないせいにしようとする。

 

家のことは、向き合えば向き合うほどに

次から次へとやるべきことがあふれてくる。

そのひとつひとつを

丁寧にこなしてゆく暮らしに、

ずいぶんあこがれた。

だけど、美しいだけではなく、

それはとてつもなく大変で、時に孤独で、

きらきらと積み重ねてゆくには

それ相応の強さが必要なんだろう

と思っている。

私には、その強さが、著しく足りない。

 

「asaちゃんいいな。asaちゃんみたいにしたい」

友人は言ってくれた。

私は見せかけじゃなく本心から、

ぶるんぶるん首をふった。

 

彼女と最後にあったのは、

まだ娘たちが小学生になる前の

数ヶ月前の公園。

弱りきっていた彼女はとても痛々しくて、

「ごめん。ちょっとやっぱりしんどい」

と、一度も笑わずに

娘ちゃんの手をひいて公園をあとにした。

その後ろ姿をみて私は少し泣いた。

きょとんと不思議そうに友人親子を見送った娘が

私の顔をのぞきこみ、

「ママ泣いてるー。なんでー?」

と笑っていた。

 

子どもの入学を機に学童にも申し込んで

仕事をさがしている、

と友人からメールできいた。

いろいろあってつらいけど、

働いていないことがいちばんつらかったから、と。

 

それから彼女からの連絡は途絶えている。

子どもの校区が違うため、学校行事で会うこともない。

 

彼女の家は、今、

どんな感じに彩られているんだろう。

 

会いたいな。彼女にも、娘ちゃんにも。

 

我が家はあいかわらず無機質に……

いや、

・・・

不自然なほどの大量の消しゴムのかすが

にぎやかに散りばめられている。

その中にポツンと……

鼻クソ型の手作り練り消し。。。