夫の癖がやけに気になる。
毎日毎日、ふと見ると、彼は髪の毛をさわっている。
下から上にかき上げるように、とかすように、整えるように、
いつまでもいつまでもさわっている。
いや、いじっている?
いやいや、愛でている?
スマホ片手にもう片方の手はいつも髪、
さあ寝るぞとベッドに入っても手は髪、
電車に乗ってても手は髪、
エレベーターに乗ったら後方の鏡をみながら
なにやらお得意の表情をして
ここでは気合をいれて髪を整えはじめる。
毎月欠かさず美容室で短くカットされた髪を
いつもいつもさわっている。
大げさかもしれないけど、
私には、いつもいつも……に見えるのだ。
「そんなにずっとさわってたら禿げるよ」
禿げることが悪いことだとは思っていないけど、
私の苦手な匂いを放つ液体をふりかけて
よくモミモミしている夫は
明らかに禿げるのを恐れているので、
そこにつけこむように言い放つ。
いつもさわっていると薄くなる
なんて情報は、実のところ、
見たこともきいたこともない。
「またさわってる。禿げるよ」
夫の手がピタッととまる。
でも1時間後、やっぱりまた目にとびこんでくる。
ソファーでふんぞり返って
テレビを見ながらけらけら笑っている夫の手は
せっせせっせと髪を愛でている。